大学時代の著述
人生は、不可逆なステージ進行の連続である。「あのステージに、もう一度戻りたい」と思っても、それはかなわぬ。もう一度再現しようとしても、自分が変質している以上、自分が感ずる世界もまた変質している。まあ、そんなわかり切ったことはどうでもいいのだ。つまり、今日もまた過去のことを書くということだ。
大学時代に入っていた合唱団は、80人からの団員がいた。組織は本格的で、広報誌も定期的に発行されていた。そこに僕は、毎回のように自伝的著述を投稿していた。 僕は、印象に残った夢をできるだけ克明に文章化していた。夢なので、起こる出来事はありえないことだが、それを体験する自分自身は、紛れもないふだんの僕であった。夢の中といえども、世界の法則性が変わるだけで自己はなんら変質しておらぬ。だから夢を書くことは、現実を書くことと同様に価値があると思っている。 だから、芥川龍之介がその著書で、「他人の夢ほど、読まされておもしろくないものはない」と言っているが、僕はそうは思わない。上っ面はありえない話にしても、そこで生じる心理的な動きは真実なのだ。そう、夢もまた、わが身に降りかかった真実なのだ。そこに人の機微を見つけることができない者は、たとえノンフィクションを読んでもむなしいと思う。 「骨肉の愛」 一日の業を終えて、A(女)と帰路に着いたのは夜の10時をすぎていた。 僕は町の隅っこで、ダンボールの家に住んでいた。地面には木の板を敷き、部屋は一つで毛布だけがあった。家具はなかった。その家には、僕の恋人のBと、2人の幼いのがいた。幼いのは妹や弟か、自分の子か知れなかったが、4人はいつもくっついて眠った。そうやって、1つの毛布で寒さは十分しのげた。 その日は帰りが遅くなったので、幼い2人が僕を探しにきていた。僕は向こうからその2人がやってくるのがわかった。2人は僕に気づいていなかった。僕はもう少しAといたかったので、幼い2人に見つからないよう角を曲がった。彼らは僕らに気づかず通り過ぎた。僕はAと2人でしばらく歩いた。僕はAに悩みを打ち明けた。 「僕はだめなやつだ。僕は無能でかつ怠惰だ。僕は自分の力で何も得られない。人から何かをもらう資格もない。」 僕はAと別れて、一人寒い道を、家に向かった。 ダンボールの中は、寝臭くあったかかった。Bが独りで寝ていた。僕は彼女にくっついて毛布をかぶった。幼い2人も、すぐに帰ってくるだろう。あったかい毛布の中で、「骨肉の愛」という言葉が思い浮かんだ。僕がどんなに無能でも、僕が何を失っても、僕が手を離さない限りそこにあるものであった。僕さえ手放さなければ、僕は永遠に幸せなのだ。 「Muse95号」より
by takeyabubass
| 2006-02-28 22:08
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