ショック → 新境地
今日の午前、農協の主催で、いわゆる「達人」の畑を見学してきた。といっても車で2,30分の圏内である。4箇所見てきた。うち2箇所は圧巻だった。
平地である。木と木の間隔が広く整然と並んでいるので、作業性が抜群に良い。畝を立てて、水はけをよくしている。防風ネットで畑を囲んでいる。至るところでヒモによる枝の誘引をしている。すべからく株元をしめたマルチ栽培である。実が柔らかく、群状になって浮き皮がない。カメムシや蛾や裂果によって木の上で腐った実がない。皮が柔らかく、きれいな「みかん型」をしている。フツ元まで真っ赤に熟している。大きさにバラつきがなく、Mサイズが中心である。摘果した実をマルチシートの上に放置せず、畑の外に持ち出している。極端な豊作、不作がない。残念ながら食べさせてはもらえなかったが、全ての条件が「このみかんは非常にうまい」といっている。僕にも、それくらいはわかる。 総じて、「徹底的に管理された空間」である。だからそう広い面積はできない。みんな10aから20aだった。おそらく手をかける園地とかけない園地を分けており、今日見たのはその人が一番力を注いでいる畑だろう。にしてもすごかった。 それでいて、栽培面積は梅のほうが広く、総面積も僕よりかなり広い。つまり何十年も本気でやってる人と、かけだしの上独りよがりでのんびりやっている僕との実力差が、そこにありありと横たわっているのだ。 まずショックを受けた。僕はザコだと思った。昨日まではそれでいいやと思っていたのに、急にそれが虚しくなった。つらくなった。あまりのショックに、昼休みは寝込んでしまった。1時過ぎに目が覚めて、赤い目で、悶々としながら軽トラにのり、一人畑に向かった。バレンシャの摘果である。 風が冷たい。木の肌は暖かい。日光は、寂しげな秋の色を帯びている。 樹齢80年の老木に登っていつものように仕事をしていると、だんだん気持ちは落ち着いてきた。自分が虚しいのではなく、彼らがとてつもなくカッコイイのだと感じ始めた。そう、夏目漱石やアンドレア・ボチェッリに対するような思いである。月並みな言い方をすれば「尊敬」である。 農家も、表現者であると言う点では彼らとなんら変わらない。僕も、歌や文章を好んでやるところを見ると、表現者の端くれである。これまで「農業は表現である」と実感したことはなかった。特に最近は、「生活に必要な金を得る手段」に堕していた。僕はもうけに対してはさほど執着していないので、自然、農業に対する考えもそう苛烈ではなかった。 しかしよく考えてみると、「うまいみかんが作れる」というのは、めちゃくちゃかっこいいことである。全部が全部そうでなくてもいい。たとえ10aでも、自信を持って人に食わせられる畑があって、それを食った人が「すげえ」と感動したなら、それは大きな喜びである。今の僕には、未知の喜びである。 「それをやりたい!」と、強く思った。 ひろがギターを弾くのを見て、大学4年のとき僕もギターを買い、練習を始めた。ボチェッリを見ながら歌の練習もした。一日に少しずつそれを続けた結果、姉の結婚式には、多くのお客さんが絶賛しプロの目にもとまる演奏ができた(お世辞もあろうが)。そういう経緯があるから、農業でも時間をかけたらできるはずだと思った。 誰かに、僕のみかんを食べさせたい。そしてうまいと言わせたい。 諦観の境地から反転して、あくなき欲望へとつきすすむモードに入る予感である。諦観も悪いことではない。こういう時期も必要である。陰と陽は表裏一体である。より深い諦観の念をもつものは、同時により強い衝動を、同じ心に宿すのである。
by takeyabubass
| 2005-10-27 18:14
| 思想
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LetMeBeThe犬!(レット・ミー・ビー・ジ・ワン!) 松本リューのブログです。6年来の友人です。繊細な感覚と親しみやすい文体で、音楽評論や黄昏流星群をつづっています。 私たちの地域研究所 んまさんのブログです。農機具の部品を作っておられます。冷徹な考察と、実地でのたゆまぬ努力に基づく地域政策は、まさに圧巻です。 喫茶ゴリラ 幼なじみのご両親が営む、喫茶店のHPです。マスターと話していると、いい考えが浮かびます。近い将来、僕の音楽活動の拠点にできたらなあ。 晴漕雨読 友人、かまたにさんのブログです。仕事、読書、ネット、自転車と、非常にコントロールされた生活が伺えます。あくなきストイシズム。 ぷは ジコチュ日記 後輩、ホトリさんのブログです。現役女子大生の苦悩と諦観がにじみ出ています。痛かわいい。 駄目ぱんだ日記 ペン裏ソフト、ドライブ攻撃型のmisutinさんが兄妹で管理するブログ。内容は、アニメやゲームの批評など。辛口です。 N-style 愛媛のアカペラバンド、 ながはまーずのHPです。今は活動していませんが、再結成の可能性は高いです。 ヤブログ別館 竹やぶの写真館です。 竹やぶの里 竹やぶのホームページです。ここから筆者にメールできます。リアルな筆者への問い合わせは、こちらからお願いします。 以前の記事
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