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ありときりぎりすの話を知ってるかい?

夏に一生懸命働いたアリは冬を越せて、遊んでばかりいたキリギリスは死んでしまったというお話。「一生懸命働きなさい」という訓戒がこめられているのだろう。

しかしこの話には続きがある。

この話を聞いた、一匹の若いキリギリスがいた。名を鉄幹(てっかん)と言った。彼は、「先人の轍を踏むまいぞ」と一念発起し、周りのキリギリスが遊んでくらす夏の間、額に汗して食糧を蓄え、寝床をこしらえた。来る日も来る日も独りで穴を掘り、干し草を作った。そしてついに、立派な寝床と5か月分の食糧の備蓄ができた。彼は満を持して冬を待った。

しかし冬の訪れとともに、彼の体は次第に弱っていった。11月のある朝、彼は一生をかけて作った寝床の中で、大量の干し草に囲まれて死んでいた。

鉄幹の手記にはこうある。
「10月25日 さむくて動けない。食欲もない。死がちかづいていることが分かる。
働くことは善、遊ぶことは悪という風潮を正しいと信じ、私は働き続けた。自分がキリギリスであることを忘れて、アリたろうとした。しかし所詮は無駄な足掻きで、どうがんばっても冬は越せなかった。
先祖は正しかった。キリギリスはキリギリスらしく夏を謳歌し、冬の到来とともに死ぬべきなのだ。キリギリスである私が、アリたろうとしたことが悲劇の始まりであったのだ。

このお話が与える教訓は、うってかわってこうなる。

自分らしく生きよう―


しかし鉄幹の手記には、こうも記されている。
「11月3日 床に臥して2週間になる。いつ死んでもおかしくはない。あれから体は、衰弱する一方である。もはや何の望みもない。
しかし、心は日一日と安らかになっていく。以前は、アリたろうとして一生を棒に振ったことが悔やまれて仕方なかった。なんで自分を偽って、こんな一生をおくったのか、と。
しかし床に臥してのち、必死だった当事を思い出すと、そこにいる自分はなんとも美しい。今、寝床の横においてある干し草も、全て私が摘んだものだ。保存法など全く知らなかった私が、試行錯誤を繰り返してこれだけの偉業をなしたのだ。一生を通じて、私は希望に満ちていた。虚しさを感じたこともなかった。充実していた。
それで十分ではないか。そしてこの静かなる、干し草と土のにおいに満ちた薄暗いねやで、こうして死んでゆくのである。なんという安らかな気持ちであろう。
私は私であった。「アリたろうとするキリギリス」、それが私なのだ。私は力の限りやった。輝きに満ちた生涯であった。今となって、なんの悔いることがあろう。」

これが強がりでないことは、彼の死に顔が証明していた。安らかな死に顔だった。
この童話には、もはや何の訓戒もない。


どんなに悲壮に見える生き方でも、周りから見ておかしくても、全ての人が必ず訪れる境地がある。

「諦観の境地」。

ここに達すれば、全てを受け入れられる。どんな自分にも納得できる。あらゆる苦悩は解決する。

要するに、我々には声を大にして世の中に伝えるべきことなど何もないのだ。おのおのが、その人生の中で必ず「諦観」に行き着く。ならば、苦労して変えねばならぬことなどこの世には何一つない。説話など、不要である。教育もしかり。
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by takeyabubass | 2005-10-22 22:03 | 思想
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